『博士の愛した数式』ほっと一息つきたいときに読んでほしい

『博士の愛した数式』概要

数学者の「博士」と家政婦の「私」、そしてその息子「ルート」の心温まる交流を描いた小川洋子の小説。博士は数学の天才だが、記憶が80分しか持たない。博士は家政婦の私やルートに対して毎日初対面のように接しながらも、数学の美しさや数式にまつわる話を情熱的に語る。

特にルートとの友情は深まり、博士はルートを自身が愛する「ルート(平方根)」と呼ぶようになる。数学を通じて築かれた3人の絆が、日常の中でささやかに輝くことが描かれ、心の温かさや人間関係の豊かさを示している。本作は「数学」という一見難解なテーマを扱いながらも、家族愛や絆、そして人と人との繋がりの美しさを伝える作品。

博士の愛した数式』感想

高校生の夏を思い出した。本作で幾度も出てくる数式や記号、例えば素数や「√(ルート)」という言葉を聞くと、高校3年生の夏、受験に向けて蒸し暑い教室で数字と向き合ったことを思い出す。読んでいるときも読み終わったあとも、ほんのり温かい気持ちになれるが、温かいだけではなく、切なさもある。けれどその切なさも含めて、本作が持つ「温かさ」になっているのだと思う。

80分しか記憶が持たない博士が、記憶がなくなったあとでも何があったかを知るために「こういうことがあった」とメモに書いて背広に貼るシーン。本作では何度も繰り返されるこの行動からは、博士の涙ぐましい努力と孤独、どれだけ想像力を働かせても彼を理解しきれない苦しさが伝わってくる。

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