『月光』(誉田哲也)|痛みと再生を描く、静かな衝撃のミステリー

誉田哲也の『月光』は、派手な事件や謎解きよりも「人の心の奥」を描いた物語。一度ページを開けば、静かな文体の裏にある暴力と優しさのコントラストに息を呑む。読後に残るのはスリルではなく、心の奥をえぐられるような痛みと、ほんのわずかな救い。

この記事では、ネタバレを最小限に抑えながら作品の魅力を紹介します。

『月光』あらすじ

ある女性の死をきっかけに、彼女と関わりを持つ男女の過去が少しずつ明らかになっていく。刑事でも探偵でもない、ただ「人として」事件に関わる人々の心情描写が丁寧で、読むほどに静かな緊張が高まる。

誉田作品らしい暴力的な描写は抑えめで、『ストロベリーナイト』シリーズよりもずっと内省的。それでもページをめくる手が止まらないのは、作者が人の痛みを真正面から描いているからだ。

『月光』感想

『月光』の魅力は「赦し」をテーマにしている点だと思う。登場人物たちはみな、過去の傷を抱えながら、それでも前を向こうとする。誉田作品をいくつか読んできた人なら、この作品が“異色”であることに気づくだろう。

派手な展開はない。それでも、静かなシーンにこそ真実があると感じる。ラストで流れる“月光”のイメージが、読後の余韻を深くしてくれる。

どんな人におすすめ?

  • サスペンスよりも「人間ドラマ」を重視したい人
  • 誉田哲也の他作品(例:『ジウ』『感染遊戯』)の激しさに少し疲れた人
  • 夜の静けさに合う余韻のある本を探している人

読書の秋に、じっくりページをめくりたくなる一冊。

まとめ

『月光』は、事件よりも“人の痛み”を描く物語。派手さはないが、心のどこかを照らすような光が確かにある。静かに、でも深く読者の心に残る。そんな一冊。