アメリカの人種差別問題について考える | 『ドゥ・ザ・ライト・シング 』(1989年製作)

『ドゥ・ザ・ライト・シング』あらすじ

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(Do the Right Thing)は、1989年に公開されたスパイク・リー監督の映画で、ニューヨークのブルックリンを舞台に、人種間の緊張と対立を描いています

物語は猛暑の夏のある日、イタリア系アメリカ人が経営するピザ屋「サルのピザ」を中心に進みます。店主のサルは地元の黒人住民たちと良好な関係を築いていましたが、徐々に人種差別的な言動が表面化し、緊張が高まります。黒人青年たちはサルの壁に飾られたイタリア系の有名人の写真に不満を抱き、壁への新たな飾り付けを要求するなど対立が激化。

友情やコミュニティの絆を描きつつも、根深い人種問題や偏見をリアルに描写しています。クライマックスでは、誤解や暴力が連鎖し、暴動に発展。主人公のマークやラジオDJムージー・マールの声を通して「正しいことをする(Do the Right Thing)」とは何かを問いかけます。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』感想

映画後半までは、多少のいざこざがありつつも、ゆったりとした日常生活が繰り広げられるが、ラスト20分が怒涛。人種問題が浮き彫りの衝撃的な内容と展開が襲いかかってきます。2020年にアメリカ・ミネソタ州で起きたジョージフロイドさん殺人事件をきっかけに声高に叫ばれるようになった”Black Lives Matter”にも通ずる内容です。

作中で流れるキング牧師とマルコムXの言葉が刺さる人もいるのではないでしょうか。2人は、主に1950年代から1960年代にかけてアメリカで起こった公民権運動時代における代表的な指導者です。キング牧師はViolence(暴力)では何も解決できないと訴えた一方で、マルコムXは自己防衛のためならViolence(暴力)を行使することも辞さないと主張しました。2人とも違う方法を取りながら、黒人の地位向上を目指した点では共通している。

アメリカにおける人種問題に興味がある人にぜひ観てほしい。社会派映画といっても終盤までは穏やかな日常が繰り広げられているので、テーマのわりに気軽に観られる作品です。

キング牧師の功績

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King Jr.、1929年~1968年)は、非暴力による公民権運動の指導者として世界的に知られています。公民権運動とは、1950年代から60年代にかけて黒人や他の少数民族によってアメリカで展開された、人種差別を廃止し、白人と同等の権利を保障されるよう要求した社会運動。キング牧師といえば、「I Have a Dream(私には夢がある)」という演説が有名です。彼の非暴力抵抗の理念は公民権運動を推進し、1964年の公民権法成立に大きく貢献しました。同年に、ノーベル平和賞を受賞。

しかしその後も差別は根強く、彼自身も批判や脅迫を受け続けました。そして1968年、テネシー州メンフィスの宿で暗殺されました。彼の精神と理念は、今も世界中で語り継がれています。

演説「I Have a Dream(私には夢がある)」の内容

1963年8月28日、アメリカ・ワシントンD.C.での大規模なデモ「ワシントン大行進」で行われた歴史的な演説です。約25万人の聴衆を前に、リンカーン記念堂の前で語られました。

ワシントンD.C.にある「リンカーン記念堂」

キング牧師はまず、アメリカ建国時の独立宣言が「すべての人は平等に造られた」と明言しているにもかかわらず、黒人は依然として差別され、不当な扱いを受けていると訴えかけました。

そして、その現実を打破するためには怒りや暴力に頼るのではなく、尊厳と規律を持った非暴力的な抗議を続けるべきだと主張。復讐ではなく正義を、憎しみではなく愛を選ぶ姿勢が、真の自由を勝ち取る鍵であると語りました。

演説の中盤からは、かの有名な「I have a dream(私には夢がある)」というフレーズを繰り返しながら、未来への希望を述べます。彼の夢とは、白人と黒人の子どもたちが手を取り合う世界、人種ではなく人格によって評価される社会、そしてアメリカ全土に正義と自由が行き渡ることです。

最後には「Let freedom ring(自由よ、響け)」という言葉を用い、アメリカ各地に自由が満ちあふれる日が来ることを呼びかけました。

公民権法(Civil Rights Act of 1964)とは

公民権法(Civil Rights Act of 1964)は、1964年に制定された、アメリカにおける人種差別を法的に禁止した歴史的な法律です。この法律により、公共施設や学校、職場などでの人種・肌の色・宗教・性別・出身国に基づく差別が禁止されました。特に、ホテルやレストランなどの公共の場での差別が違法となり、公立学校での人種分離教育も禁じられました。雇用における差別も禁止され、すべての人に平等な機会が与えられるようになりました。

さらに、司法省に強制力のある介入権限が与えられ、差別是正が現実的に行えるようになりました。この法律の成立は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアらによる非暴力の公民権運動や、ワシントン大行進など市民の力が背景にあります。1964年の公民権法は、アメリカ社会における平等の実現に向けた大きな転換点となりました。

 マルコムX

マルコムX(Malcolm X、1925年~1965年)はアメリカの黒人解放運動の指導者であり、人種差別に対して強い姿勢で立ち向かった人物です。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアと同じ時代に生きました。彼はキング牧師のような非暴力主義とは異なり、「必要なら自己防衛も辞さない」という姿勢で知られています。