『禁忌の子』を手に取った背景
以前友だちからタイトルと、現役医師が書いたという情報を聞いた。気になっていたが、単行本しか出ていないのでスルーしていた。私はよく、文庫本を待ってしまうのです。
しかし、最近理系の話がテーマの本を読みたいと思っており、『禁忌の子』はなんとなく生物学のような話かなと感じたので、読むことにした。あらすじを読んで惹かれたのも大きな理由のひとつ。
『禁忌の子』あらすじ
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ! 第三十四回鮎川哲也賞受賞作。
参照:東京創元社(https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488025694)
『禁忌の子』感想
身元不明の遺体が、自分と「瓜二つ」って、どういうこと……?
救急医・武田は、ずっとひとりっ子だと思って育ってきた。病院に運ばれてきた「キュウキュウ十二」は武田と少し似ているどころか、全くのコピーと言っていいほど瓜二つ。顔・背格好に加えて、お尻にだけ毛が多く生えているという本人くらいしか知り得ないことまで同じ。さて、どんな謎が隠されているのだろうか。
物語の中盤以降、複雑に絡まった糸が少しずつ解けていき、「キュウキュウ十二」の人物像が次第に明らかになっていく。ネタバレはしたくないので、ストーリーには触れない。
本作では非配偶者間体外受精、凍結融解胚盤胞移植、羊のドリーなど、生殖医療と生命科学の歴史に関する話が散りばめられている。一部フィクションはあるが、人間の手を加えてひとつの生命を作り出そうとした「不妊治療」などの黎明期に活躍した人たちは、本当にすごいと思った。また、自然の摂理の観点から見たときの、無理やり新しい生命を作るようなクローンや非配偶者間体外受精に関する議論についても考えされられた。
羊のドリーが気になって調べてみた。1996年にスコットランドで誕生した世界初の「体細胞クローン」のヒツジだそうで、成長したあとは自然交配によって子どもを産むなど、普通の(?)ヒツジと同じような生活をしていたそう。しかしヒツジの平均寿命が一般的に10年〜12年ほどといわれるなか、ドリーは関節炎や肺疾患のため、6歳半で生涯を終えた。
またイギリスで起きた、誕生したときに引き離された双子が互いを双子だと知らずに結婚し、その後「婚姻無効」の判断が下された事例が紹介されていた。当時のイギリスでは、精子・卵子提供で生まれた子供が「自分の本当の血縁(ルーツ)」を知る権利」が十分に保障されていなかったが、この事件を通して「子供が自分の生物学的な親(ルーツ)を知る権利」が訴えられたそう。小説の中でこのようなテーマに触れて、興味を持って学べたのもポイントが高い。
参照:the Guardian(https://www.theguardian.com/uk/2008/jan/12/uknews4.mainsection2)